赤ちゃん生きてますか

 

赤ちゃんが死んでしまう—

 

泣きながらOP室へ運ばれる。

OP台へ乗せられると同時にすぐに麻酔で眠らされた。

 

 

 

「…わかりますか…深呼吸できますか」

 

遠くの方で声がした。

真っ暗な海の底に沈んでいるみたいな感覚で

苦しくて。

でも遠くで聞こえてくる声が近づいてきてる気がして

救いを求めるかのように指示に従うことにした。

できるだけ息を吸い込んだ瞬間

眩しさを感じ呼吸をした。

 

気管チューブが引き抜かれた瞬間だった。

そうだ赤ちゃん産んだんだ。

動かない体で記憶を手繰り寄せる。

 

「赤ちゃんは生まれてきても心臓が動いてくれないかもしれない」

そう言われていたから。

 

声を出そうにも声が出ない。

酸素マスクもされているため声が相手に届くのだろうかと不安になりながら

顎を上げ声を絞り出す。

「赤ちゃん…生きてますか」

麻酔科の先生が声を拾ってくれた。

「元気な赤ちゃんとかわらないくらい大声で泣いてくれましたよ!

生きてます!もう救急車で病院に運ばれてます。

お父様と一緒に病院に向かいましたよ。」

 

生きてる。

よかった。

そう安堵した瞬間

下腹部の重い痛みを感じた。

「痛み止めしますね。しばらく眠ってください。」

 

もう一度目を覚ますと病室だった。

主人が病院から戻ってきていた。

 

赤ちゃんの様子を聞くと

「なんか赤黒かった。

あとお前に似てブスや」

お腹痛いのにそんなことを言う。

無事なんだとホッとした。

 

赤黒い。

心疾患特有の症状。

循環が悪いためチアノーゼが出ているから。

 

主人に話を聞くと

まず私がOP室に運ばれている間に病院から連絡がきて

10分もしないうちに赤ちゃん取り出しますと言われ

病院にはもう向かっていたが間に合うわけもなく

病院に着いたらもう赤ちゃんは産まれていて

OPをする病院に搬送するために救急車で運ぶ寸前で

何枚も承諾書やなんだかわからない書類にサインし

急いで救急車に乗り込んで

またそっちの病院でも山のように書類にサインしてきたと話す。

 

よくテレビで見る

分娩室の前で居ても経ってもいられないで

そわしわして赤ちゃんが産まれるのを待っているパパの映像からは

程遠い時間を過ごしたらしい。

 

主人が赤ちゃんの写真や動画をたくさん撮ってきてくれていた。

私に見せてあげようと

何の書類にサインしているかもわからないくらい

自分だって怖かったくせに

こんなにたくさん写真撮ってくれたんだと思うと

普通の分娩ができなかったことさえもどうでもよかった。

 

 

後で看護師さんに聞いたことだけど

主人が病院に着くなり発した言葉は

「赤ちゃん生きてますか」だったらしい。

 

生きててよかった。

 

 

ここから始まる闘いの凄まじさを知らない私たちは

束の間の穏やかな時間を

この時過ごしていた。

 

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